• とけいじ千絵

無題


主に圧倒的に睡眠不足の時が多いんだけど、明け方に部屋のどこかで没していて、朝日で目が覚める。 なかなか強い光が差し込んでいて、とても幸せな気持ちで目がさめる。私は完全に寝ぼけていて、幸せであるということしかわからない、自分が何者で、どこにいるかわからなくなるんだ。 この先に対する不安を何ひとつ背負っていない状態で、その心身の軽々しさに、朝光もあいまって、ここは天国なのかと本気で一瞬、思う。 そしてその後は、お決まりのように、実家に住んでいた大学生の自分、週末の朝に瞬間トリップする。 遅く起きた朝、既に私の部屋の窓は母により開け放たれていて、微睡む風と白い朝日がちらちらとレースのカーテンを揺らしていた。顔に光があたる。大好物のもやし炒めの微かな匂いと、1階で父が話す声、時折相槌を打つ母の短い声。 それをささっと確認して、すべてを完全に抱きしめて、私はまた二度寝をしたんだ。 (多分私の人生で最も幸せな瞬間のひとつだったんだと思う) 天国かと疑い、その後、実家の朝を思い返すのは、おそらく0.3秒くらいの出来事。 そしてその後0.2秒ほど、ここがどこで、自分は何歳なのか、混乱する(カフカの変身や浦島太郎はこんな気分だったのだと思う)。 私は今天国でも実家でもないところで、結婚もして、子どももいて、もう母はいないことを自覚する。あの頃は遠い昔だということも。 ここまで1秒にも満たない。 最初の軽々しさは、夏の冷房きんきんに聞いた部屋で昼寝をする小学生のような感じだ。 力強く守られていて、整えられていて、自分に何の責任もない、肩凝りも腰痛もなくて、そうか、もしかしたら、天国じゃなくて、母親の羊水の中だったのかな。 そしてそこからの現実に引き戻される感じはなんとも表現しがたい。 空から地に落っこちる感じとでも言おうか。 とにかく白かった光景が現実の色を帯び、重力を感じ、今の私を取り戻す。 35歳、白髪と体力不足が悩みのいつもの私笑。 現実に落胆しているわけではなくて、地に足がつく感覚。 もう人生に悲観も失望もしなくなったぞ。 ここ数回、年に2ー3度この感覚を経験する。 なんとも不思議でとても愛おしい感覚。 ※暑さで頭がおかしくなったわけではありません。 


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